夢の街

  

今日も又、嫌な事があった。
どうして こう、気に障る事ばかりあるんだろう。
まぁ、いい。 夢でも見よう。
夢の中のカフェで、コーヒーでも飲む事にしよう。

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穴だらけの古いドアを押して入ると、挽きたてのコーヒーの香りに包まれる。
今日も、客はいない。 俺一人だ。
いつもの窓際の席に座ると、何も言わなくても いつの間にかコーヒーが運ばれている。
いつも同じ、濃い目のブレンド。 砂糖もミルクも入れない。
ここのマスターは俺の好みをよく知っていて、いつも濃い目に入れてくれる。 会った事も、見た事も無いが。
そういえば、話しをした事も無いな。 いつも俺が独り言を言っているだけだ。
このカフェで、俺以外の客も店員も、一度も見た事が無い。 そのせいか、一番落ち着ける場所となっているが。
苦いコーヒーを飲みながら表に目をやると、ぼやけた陽射しの中で 樹木がゆれている。 風は無いというのに。
いつもと同じ、薄曇りの、ぼやけた光景。

なんとはなしに、駅に向かう。
相変わらずのボロ駅舎だ。 運賃表もかすれて読めない。 おまけに、電車は来ない。 無人の駅だ。
ここで電車が走っているのを、俺は見た事が無い。 電車など乗らないから、そんな事はどうでもよいのだが。
ぼんやりと、路線図を眺めるのが好きなだけだ。
原始的な生き物の触手ような、環状線から四方に無造作に伸びる何本かの路線がある。
この駅は、この路線図ではどの辺にあるのだろうか。 まぁ、どこであろうと、俺には関係ないが。

駅の左に小さな山がある。 あの山の上からは、この街が一望できるのだろうか。

商店街も学校も、住宅や大きな社宅もある街なのに、相変わらず人っ子一人いない。
公園では、つい今しがたまで誰かが居たかのように、ブランコが揺れている。
そういえば、音も 無いな。 この街は。 静かにブランコが揺れている。 いつも。 いつも。
弱い風だけが、ひゅーひゅーと鳴いている。

さぁ。 そろそろ、この街を出なくては。 もう時期、仕事に行く時間だろう。
いや、もう少し、ここに居ようか。 ・・・・・・・・ずっと ここに居たら、どうなるんだろうか。
そうだ。 ここに居よう。 ここが一番休まる。 一番落ち着く。 誰も居ない、俺だけの街。
何も、目覚める事は無い。 ここに居ればいいんだ。
そうだ。 眠ろう。 眠り続けよう・・・・・・・・

  

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