愛を知らずに

  

私は、愛を知らない。

暖かな母の懐に抱かれる事も無く、
大きな 父の手に ひかれる事も 無く、
母の恩を知らずに、
父の 勇気を 知らずに、
母に包まれる事も無く、
父に 守られる事も 無く、
私は 育った。

愛とは 何だろう
愛する事とは、どんな事なのだろう
安心は、何処からもたらされるのだろうか
眠る事と 似ているのだろうか・・・・・・

夜明けの来ない 混沌とした日々
深海に住む 白い魚のように、
陽を知らず、色を知らず、
何の為に生きるのかも 解からず、
ただ、食らい、眠る
そこにも 愛は あるのだろうか

しかし、私は 生きている
昏々とした日々でも、私は 生きている
愛が無くとも、愛を知らなくとも、
全てが無意味でも、私は 生きている
「愛している・・・あなたを」 と、 かつて 呟くモノがいた
あれは 何だったのだろう
それが去ってからの この空虚さは、何なのだろう
愛とは、何かをさらってゆくものなのだろうか
ぽっかりと 孔を開けるものなのだろうか
なら、何故 皆、欲するのだろう

暖かな懐に抱かれる事も無く、
大きな手にひかれる事も無く、
包まれる事も無く、
守られる事も無く、

私は 愛を 知らない

  

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