遺言

  

これは、 彼女の遺言です。



心なんて 要らない
哀しんだり  傷付いたり  苦しんだり  いたたまれなくなったり、
我が身を責め苛む心など 要らない


誰も 自分の事で精一杯で、
自分だけでは何ともならず 他人を頼って
頼り 頼られ   自分は どう?
頼る事を 頼る術を知らない私は、
誰に どう 頼ればいいの
もとより 頼る術など 無い
無い 無い  無い   ならば 全て無に帰せば良い
皆 自分の事で 精一杯
私も 自分を持て余す

例えば私が消えたとしても、
誰も困りはしないだろう
私が心を消したとしても、
この体が今まで通りに機能していさえいすれば
そう  それは 解かっている
ずいぶん昔に 経験した事
私の心は 誰にも要らない

心なんか無くたって、
顔が微笑んでいればいい
悲しくなんかなくったって、
悲しい表情を作ればいい
それで 皆 満足   なら それで いい

空を見上げる
何事も無い と  空が答える
何も変わらない 今まで通りと 太陽が私の陰を消そうとする
例えば死んだって 馬鹿らしいだけ
何故私が死ななきゃならない
何故 私は 生きなきゃならない?
「生きてさえいれば希望も未来もあるじゃぁないの」
それは私のいつもの台詞
希望も未来も 自ら摘み取り、
自分で自分を 追い込んだ
どうしようもない 馬鹿だよ   解かってやってる でも その時は、
その時には そんなつもりじゃ無かった   たしか
今は  希望も 未来も 何も かも、
見出す術が 見つからない
何が希望だったのか   それすら 思い出せない

家族は 私を突き放すもの
私を 自分の枠にはめようとするモノ
子供は 私を追い込む物
私に 昔を 思い出させるモノ
何も助けにはならない
誰も 助けては くれない
泣いても 叫んでも 懇願しても、
只  只  遠ざかるのみ
「家族の為に生きればいい
 家族の為に 生きなきゃいけない
 家族はあなたを必要としてる  あなたが居なけりゃ 生きてはゆけない」
それもいつもの私の台詞   でも、
ならば私は 何?   私は 誰?
私は 何処?
私は 自分の為に生きては駄目なの?
私の為に居るのは 誰なの?
私も 私の為には 居ない
私は 居ない   何処にも 居ない
居ないモノなら 要らない   要らない
「そうした方がいいと思うなら そうすればいい
 そうしたいのなら そうすればいい
 それがあなたの考えた末なら
 あなたがそうしたいなら」
そう   私は あなたの何でもないものね
私は あなたの中にも 居ない

無い 無い  無い   何も 無い
心も 無い   それで いい
私を頼って来る人にだって、
私の心は 必要 無い
今までの経験や 考えや  そういうマニュアルさえ あれば いい
マニュアルに従って動く
それで いい   それが いい   それが 楽

哀しみは 要らない
苦しみも 要らない
憂いも 要らない
心など 要らない
愛など 解からない
情など 要らない
楽しみも 要らない
安らぎなど 無いのだから
無い 無い  無い   無い    無い

私は  無い
無くても 何も 変わらない

彼には 彼女が
彼女には 彼が
あの子には あの人が
あの人には あの子が
求める人には 求められる人が
皆 居場所がある
皆  希望が ある   未来が ある
私とは関係の無い事
必要とされるのは 機能する体だけ
反応が入力された 高性能な朽ちる機械   それで充分
元気を装えば それで いい
誰も 元気なら 哀しまない
仮面は 剥がされない   仮面は 剥がそうとはされない
剥がしたくは無いから   剥がさない方が 誰も 楽だから
仮面に気付いても 剥がさない   いや  気付きもしない
SOSは 気付かれない   気付いても 無視 ごまかし 遠ざけ
居場所は 無い
泣く場所も 無い
泣く事すら 許されない
求められるのは 笑顔 だけ

もう よそう   何も かも
考えるのも よそう
想うのも よそう
見るもの やめよう
話すのも よそう   無駄だから
考えは無意味
想いも 無意味
感じるのも 無意味
発するのも 無意味
求めるのも 無意味
探すのも 無意味
応えるのも 無意味
生きるのも 無意味
死ぬ事すら 無意味
頼るのも 無意味
何も観ない
何も 聴かない
何も  云わない
何も   無い

無い 無い  無い   無い    それで いい
私は ”私”を 消そう




これは 彼女からの 遺言です

  

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某所にレス詩を付けて投稿する予定でしたが、やめたものです。 誰か これに レス詩を下さい。